
最近、リクエストをいただいて、特にSnow Manの楽曲をメインに、日本で作られた英語が多く登場する楽曲を訳しています。その際に、「日本の英語歌詞あるあるなのですが、意味のわからない英文が多発します。こんな感じかな?と意訳しております」という注意書きを入れているのですが、ある時「それってどういうこと?」という問い合わせを頂いたので、今回は、なぜ日本で作られた英語歌詞が不自然で英語として成り立っていないのか、をJ-Popを代表してSnow Manや他の英語詞をよく歌うアーティストと比較検証したいと思います。

この記事を書くにあたり
1980年代のアイドルソングが流行り出した頃から、歌詞の一部に英語詞が使用され始め、90年代には当たり前の様に様々な楽曲の中で使用されるようになりました。90年代後半から流行り出した楽曲のサビに英語が使われ始めたのを記憶しています。それが、現代の音楽業界に引き継がれています。多くの場合、英語が文法的に意味を成しておらず、「なぜ、こんな英語を使うのだろう」と考えていました。
日本の英語歌詞が不自然に響くのは、制作の優先順位や文化的背景が大きく影響しています。それは欠点であると同時に、J-Popならではの個性にも。
意味よりも響きを重視するアプローチと、世界に通じる自然な英語とのあいだ。その揺らぎの中に、J-Popの独自性が息づいているのではないでしょうか。
J-Popのみならず、多くのK-popの英語歌詞にも同じ現象が見られ、英語圏以外の共通問題なのではと考え、検証してみました。
今回は、Snow Manをはじめとするアーティストを取り上げてみましたが、関連各位を責めるための記事ではありませんのでご了承ください。

なぜ日本の英語歌詞は不自然に聞こえるのか?

1. 英語歌詞が文法的に成り立たない理由
サウンド優先の作り方
J-Popやアイドルソングでは、英語は意味よりも響きを重視して使われることが多いようです。リズムに合うことや発音したときの雰囲気を優先するため、フレーズ自体は格好良くても、文法的にぎこちなくなりがちです。
作詞家の英語力
作詞家が必ずしもバイリンガルとは限らないため、教科書的に正しいが子どもっぽい表現や、和製英語的な言い回し、英語の感覚的な組み合わせがそのまま使われることもあります。結果として、ネイティブにとっては不自然に聞こえる歌詞が生まれやすいのです。
メロディとの制約
日本語の音数(モーラ)と英語のリズムは必ずしも一致しません。歌いやすさを優先して単語を切ったり強調したりするうちに、意味が伝わりにくくなることがあります。

2. 面白みがない歌詞になりやすい理由
歌詞に盛り込まれた英語の響きがカッコよくても、訳してみたらなんかイメージと違って面白みがない歌詞だった、という話をよく聞きます。こちらも検証してみましょう。
スローガン調になりやすい
日本の作詞家は英語を響きやカッコよさで選びがち。内容の自然さよりもパンチのある単語や、Break through every limitやBelieve in yourselfなど、日常会話ではほとんど使われないフレーズで力強さを強調したりする場合も。表現が硬く標語に近い響きになり、どこか説教くさく聞こえてしまいます。
応援歌文化の影響
日本のアイドルソングやJ-Popは、リスナーに前向きなメッセージを込めた歌が多く、英語パートも応援系のフレーズに偏り、どうしても真面目な響きになってしまいがち。英語圏のポップスが恋愛・日常・比喩を多く扱うのと対照的です。
ネイティブの余白や曖昧さの欠如
宇多田ヒカルやKing Gnuなど一部のアーティストは、短くシンプルで、意味をリスナーに委ねる英語的な余白を上手く使います。日本の英語歌詞は、言いたいことを全部言葉にする」傾向があります。そのため説明的になりやすく、余韻が薄れてしまいます。
正しいが平板な英語
高学歴な作詞家やアーティストが書く英語は、文法的には正しくても比喩や遊びが少なく、「説明」に寄りやすい傾向があります。正確さはあっても、感情の揺れが伝わりにくく「だから何?」と感じられてしまうのです。
面白みに欠ける具体例
一見すると相手に語りかけているようでも、繰り返しが乏しく、リズムに乗り切れないまま流れてしまうことがあります。さらに、なぜその言葉を選んだのかという必然性が見えにくいため、聴き手に強い印象を残しにくいのです。

3. なぜ英語ネイティブの作詞家を使わないのか?
アイドルソングやJ-POPの市場は、国内のファンが主なターゲット。海外向けに通じるかよりも、日本人にカッコよく聞こえるかが優先されます。正しい英語を使用するより、あえて和製英語的な響きを残すケースも多く見かけられます。

4. 海外アーティストとの違い
傾向 | |
海外アーティスト | 意味・文法・リズムの三位一体で作詞され、リスナーは歌詞の意味を重視 |
日本アーティスト | 意味よりも、雰囲気や響きを優先。英語は装飾的要素として入れられることが多い |

J-POPの英語フレーズを「自然なネイティブ風」にリライトしてみよう!

ネイティブ向けにするときは比喩・リズム・自然な動詞を加えるだけでグッと洗練されます。
先日、ご紹介したSnow Manの『カリスマックス』フレーズをいくつか取り上げて、以下の3段階で検証してみます。
- 不自然な和製英語詞
- 自然な英語にリライト
- 解説

例1
不自然な 和製英語歌詞 |
No fake smile make it right てか愛想笑いなんてしない |
リライト案 | ・A real smile will make it right ・Don’t fake a smile, just make it right |
解説 | ・No fake smileは日本人にとってカッコよく響きますが、英語的には違和感が強い ・ネイティブは Don’t fake a smile(嘘の笑顔を作らないで)のように動詞を使う方が自然 ・文法的に誤り。no fake smiles+make it right がつながらない。ネイティブには意味が曖昧で「偽の笑顔が正しくする?」と解釈されてしまう |
例2
不自然な 和製英語歌詞 |
Go beyond the limitations 限界超えてゆく |
リライト案 | ・Break through every limit ・Break through all limits ・Go beyond all boundaries |
解説 | ・limitation は単数形で使うと不自然な響きに。「限界突破」の勢いを出すなら limits や boundaries など複数形の方が伝わりやすい |
ちょっとカリスマックス な解説:「limit」の単数形と複数形の違い
- limit(単数形)
- 「限界」という概念をひとつの壁として捉えているとき
- ネイティブでも「限界を突破する」という時に単数形を使うことも
→ Break through every limit = 「あらゆる限界(それぞれの限界という壁)を突破しろ」
単数ですがeveryが付いているので「一つひとつの限界」を指します。抽象的・比喩的にカッコいい印象に。
◦ 例:There’s no limit to what you can do.(君の可能性には限界がない)

- limits(複数形)
- 「複数の制約」や「いくつもの境界線」をイメージ
- より物理的・具体的な壁を複数越えるニュアンス
→ Break through all limits = 「あらゆる限界(それぞれの限界という壁)を突破しろ」
単数ですがallが付いているので「全ての限界」を指します。力強くてより一般的な印象に。
◦ 例:Push your body beyond its limits.(体力の限界を超えろ)

歌詞なら「限界という概念」または「具体的な制約」かで単数・複数どちらも成立します。どちらも英語として正しく、どちらでも使えますが、複数形にするとより自然に聞こえます。
例3
不自然な 和製英語歌詞 |
Push your hand with strong heart 必ず信念を貫く |
リライト案 | ・Raise your hands with courage ・Hold your head high, stay strong |
解説 | ・push your hand という言い方は存在しない ・強い心で、は with courage や stay strong が自然 |
例4
不自然な 和製英語歌詞 |
Sticking out genius はみ出す天才 |
リライト案 | ・A genius who stands out ・Genius that breaks the mold ・Born to stand out, genius inside |
解説 | 文法的に不自然。genius(天才)は可算名詞で sticking out と組み合わせるのが変。「目立つ天才」「型破り」を自然な英語に変換 |

自然な英語歌詞を作れる作詞家はいるの?

日本でも、英語ネイティブの作詞家や、海外のソングライターに依頼すれば、文法的にも自然で国際的に通用する歌詞は作れます。例えば、宇多田ヒカルやONE OK ROCKなどは海外のリスナーからも「自然な英語」と評価されています。
1. 宇多田ヒカルのすごさ
英語力の高さ
ニューヨーク育ちで英語が母語。
だから 「日本人がカッコいいと思う英語」ではなく「ネイティブが自然だと感じる英語」 を歌詞にできる。“世界に通じる英語”を歌詞として成立させているのが凄みです。多くの日本人アーティストが「和製英語」「文法エラー」「意味不明フレーズ」を使う中、 国際基準の英語でJ-POPを作れる稀有な存在です。
宇多田ヒカル“First Love”から英語力を学んでみよう
You are always gonna be my love
正しい文法で、ネイティブにも違和感ゼロ。一見、簡単な英語だが、音楽に乗せると、その普通さがストレートに感情を揺さぶり、共感できる普遍的なフレーズへと変わります。さらに、英語のリズムと意味が自然に溶け合っています。
「普通の英語」をあえて歌詞にできる力
多くの日本人作詞家はカッコよく見せようとして不自然な英語を選びがち。しかし、宇多田ヒカルの英語歌詞は、文法的にとてもシンプル。普通の英語をそのまま芸術にできるのが凄みです。
リズムと自然さの両立
英語を音楽的に機能させる技術が高く、意味を壊さずにメロディに乗せることができる作詞力と作曲力が魅力です。この “You are always gonna be my love” という歌詞も音節がメロディにぴったりはまっています。
翻訳不可能な「自然さ」
“You are always gonna be my love”を、日本語で「あなたはいつまでも私の愛」と歌うとと硬くクサい歌詞になってしまいます。英語で歌うことで、自然な恋人へのつぶやきに聞こえます。日常英語をそのまま歌詞にして違和感なく成立させることは、日本人作詞家には難しいのです。すごさ=難しい英語ではなく、普通の英語を壊さずに歌詞として成立させること自体が難しく、そこを成功させた第一人者と言えるでしょう。二世タレントの1人ですが、バックグラウンドよりも実力が上回るアーティストです。

2. ONE OK ROCKのすごさ
海外のソングライターやプロデューサーと共作
ボーカルのTakaの発音は英語圏でも通じやすいと言われ、ライブやフェスではネイティブに近いサウンドで歌える日本人バンドとして評価されていますが、海外のアーティストたちと共作しています。そのため、英語詞の曲は海外ロックの文法・言い回しを踏襲し、表面的には世界基準に聞こえます。世界的に流行している言い回しやスラングを即導入できる。流行りの洋楽っぽさをそのまま再現可能できるのが強みです。
マーケティング力
海外フェスやSpotifyなどの配信サービスのグローバル プレイリストにのせるための戦略を打てるマーケティング力も備えています。楽曲そのものだけでなく見せ方にも投資でき、世界市場を見据えて英語詞のクオリティを担保できる潤沢な資金があります。さらに、レーベルの後押しもあり、制作体制そのものが世界仕様。また、羽生結弦などのスポーツ選手、佐藤健をはじめとする芸能界の友人、大物アーティストがファンと公言しているのもマーケティング力になっています。
実際の口コミ
英語歌詞には自然な部分と、急に不自然な部分が混ざっていると指摘する声があります。歌詞の中に翻訳調や借り物感が混じるため、純度の高さを感じにくいためです。また、
親の七光り感も否めません。Takaはジャニーズ出身で、さらに芸能一家の二世。本人は実力をつけて海外で活躍しているものの、最初から環境に恵まれていたという事実は消せないでしょう。

3. 上記3者の違いを纏めてみた
アーチスト | 特徴 |
Snow Man | 国内ファン向けの和製英語タイプ。英語は“雰囲気要素”。最近では、海外進出を本格的に始動し、近々本格的な英語の歌を披露するかも?! |
宇多田ヒカル | 自身でシンプルかつ母語レベルの自然な英語詞を書ける。センスで英語詞を成立させる、純粋なオリジナル |
ONE OK ROCK | 海外展開前提で英語詞はネイティブ作家と共作。「七光り+資金+ゴースト疑惑」が付きまとう |
